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昔ながらの趣を残す木造の町家が、通りの両側に軒を並べる金沢市の東茶屋街。格子窓の幾何学的模様の連なりや、玄関にかかった暖簾の筆文字の美しさに目を奪われるが、通りから内部を窺い知ることはできない。芸妓がいる社交場としての茶屋は、今でも一見さんお断りの店が多い。静かな路地に入り込むと、三味線の手習いがどこからか聞こえてくる。立ち止まって弾き手の音に耳を澄ませると、江戸時代の住人になったような気持ちに一瞬なる。
老舗の料亭でいただく季節の料理は、金蒔絵の施された華麗な金沢漆器に美しくセンスよく盛られ、繊細な美学がこの街に息づいていることがよくわかる。「雅(みやび)」という言葉が違和感なく使える街は、京都と、ここ金沢だけだ。
石川県金沢市は、安土桃山時代から江戸時代、加賀藩主・前田家十四代とともに発展してきた城下町である。前田家は徳川将軍家との姻戚関係が強く、全国に大名が居並ぶ中でも別格の存在だった。領地は、能登、加賀、越中を跨ぎ,加賀百万石と呼ばれてきた。かつて前田家の居城だった金沢城は、1881年に火災で消失した後に一部復元され、今は金沢城公園となっている。
金沢が工芸の街である理由は前田家と大いに関係がある。三代藩主の前田利常(としつね)は工芸振興を掲げ、城内に御細工所(おさいくしょ)を開く。京都と江戸から名工を指導者として招いて金工・漆工などの藩主用の工芸職人を養成し、金沢に工芸を定着させた。
さらに五代藩主の綱紀(つなのり)は、工芸品の収集家であり、種々の工芸・工匠を意味する『百工比照』(ひゃっこうひしょう)をまとめる。これは実物を含めた工芸各分野の製品や技法についての一種の見本帳で、綱紀の博学ぶりと収集・整理の執念には驚くばかりだ。藩のお抱え職人たちはそういった背景の中で腕を磨き、その仕事は藩主ばかりか家臣や町民の暮らしにも浸透していく。茶道や能が奨励され、加賀文化は成熟してきた。
日本はどこを切っても工芸が息づいている国といってよいが、なかでも金沢は「工芸都市」として際立つ存在だ。金沢市は平成七年に「世界工芸都市宣言」をし、平成21年6月にユネスコのクラフト創造都市に認定され、販路開拓や情報発信の支援をする金沢クラフトビジネス創造機構、作家たちが提案する生活工芸プロジェクト、観光体験型のクラフトツーリズムなどを立ち上げてきた。若手工芸家の研究機関である卯辰山工芸工房もレベルが高いし、未来派工芸展で工芸にコンテンポラリーな光を当て話題となった金沢21世紀美術館なども心強い。前田家の姿勢を引き継ぐような、具体的かつ豊富な応援が金沢の持ち味だ。金沢は工芸家を志す若手にとってもやりがいと刺激のある街なのだ。
伝統工芸の職人の高齢化による後継者難は、日本全国いずこも変わらない。工芸のある暮らしが私たちの暮らしから遠ざかっているがために、立ち行かなくなる技術も少なくない。かつて伝統工芸で栄えた街は勢いをなくし、伝え継がれてきた多くの美が消えてゆく。現代のライフスタイルの中で伝統の工芸がどう生かせられるか。その自問はいまだ繰り返されている。
今回、ここに紹介する作家、山村慎哉(漆)、定池隆(漆)、竹俣勇壱(金工)、木瀬浩志(金工)、廣瀬由利子(水引)、柳井友一(陶芸)、保木詩衣吏(ほきしえり)(ガラス)は、そうした流れにしなやかに立ち向かい注目されている工芸家たちだ。
彼らの作り出すものには、美しくシンプルなフォルムと色彩があり、既製品にはない独特の肌合いと質感がある。きっとそれが新しいモノとの関係性を生み出し、生活に一つのアクセントを与えてくれるだろうと想像できる。そして、ものを通じて作り手の気持ちとリンクし、優しさとくつろぎを自分にもたらしてくれるはずだと。
Text by Satoru Miyake and Ryu Itose / Photo by Ryuichiro Sato
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