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木本誠一さんの、二人の祖父と父親の経営してきた会社は、ガラス製品の卸売り業に特化した業態でした。日本の市場は先細りが予測される中で、自社で製品を生産した経験がなかったにも関わらず、江戸切り子をどうにかして保存する必要有りと感じた木元さんは、「KIKI JAPANESQUE MODERN」を立ち上げました。
東京は明治以降、ガラス製品の生産をリードする地域でした。最盛期には千人もの職人を使う江戸切り子メーカーがありましたが、現在残る三社には百人程度の専門家が残るだけとなっています。この急減の理由は主に、国産では太刀打ちできないほど安価な中国製ガラス製品の輸入拡大です。木本硝子もこれまで、深刻な影響を受け続けてきたといいます。自らが動き出さなくては、更に深刻な事態を招く事を感じていました。
伝統技術を持つ職人の仕事は、デザイナーとは異なった職域を持っています。職人は仕事の正確さ、技術の研鑽、そしてそれを変化させずに次世代に継承して行くことにのみ、情熱は注がれるのです。木本さんは、何かを変えなくてはならない時が来ているのを感じ、その方法を考え続けました。
デザイナーとの協力により、木本さんは黒い硝子のアイデアを試し始めました。モダンな雰囲気、優雅さを持ち、かつシンプルなデザイン。そのために重要なのは、黒の質でした。思うような仕上がりを得る事は難しく、時間がかかり、費用もかさむ中で、18ヶ月が過ぎてゆきました。
実験が始められてから、多くの失敗が繰り返されました。落胆する技術者を励まし、しかし求める品質には妥協せずに開発は進められました。納得のいく黒の発色が得られるまでに半年間を要したのです。ベースとなる製品が出来た後の加工も、今まで通りには行かないものでした。従来の江戸切り子とは違う不透明な層が、職人にも時間のかかるプロセスを要求したのです。しかし、結果として得られた完成品は、木本さんの目指した素晴らしい出来となったのです。
多くの時間と資金を費やして生み出された「KIKI JAPANESQUE MODERN」の黒い切り子の製品たち。木本さんはの情熱とエネルギーを注ぎ込んだこのグラスたちを、今は誇りを持って見つめます。厳しい品質管理を通過した後の最終チェックを自ら行うほど、強い思い入れを持って臨んでいるのです。